今回は消化器系の疾患でよくある1つの虫垂炎(appe)についてまとめていきます。
虫垂炎とは?
虫垂炎は、盲腸にくっついた管(虫垂)が炎症を起こしてしまう疾患。
はっきりとした原因が明らかではないが、異物や糞石などにより虫垂の内腔が閉塞することで血流障害が起き、細菌感染→炎症を起こすと言われています。
虫垂炎は3つの分類に分けられる
カタル性:炎症が粘膜に留まるもの
蜂窩織炎性:炎症が壁の全層に広がるもの
壊疽性:壁が壊死しているもの
虫垂炎の症状
典型的な症状パターン
虫垂炎は疼痛部位が移動するという典型なパターンがあります。
心窩部痛や臍部→右下腹に限局した痛み
まず、虫垂の内腔が閉塞し内圧が上昇することで心窩部や臍部の痛み、悪心、嘔吐などが起きる。
そして、炎症が進行すると右下腹部へ痛みが移動する。
虫垂炎の患者さんの50〜60%がこのような典型的なパターンになると言われています。
また、国家試験にも出題されると思いますが虫垂炎には特徴的な圧痛があります。
・マックバーニ点
臍部と右上前腸骨棘を結ぶ外側1/3点
虫垂の付着部
・ランツ点
右上前腸骨棘と左上前腸骨棘を結ぶ右側1/3点
虫垂の先端付近
・キュンメル点
臍部より1〜2cm右下方の点
大門が虫垂の炎症のために引き寄せされる部位
ただし、虫垂は可動性があるので背中側に回りこんでしまうことがあるので必ずしも右下腹部の痛みだけでなく背部痛を訴えることもあります
腹膜刺激症状
虫垂炎が進行すれば穿孔→汎発性腹膜炎→敗血症性ショックのリスクがある
そのため、以下のような腹膜刺激症状を観察し急激なバイタルサインの変化に注意する。
・反跳痛
痛みのある部位を圧迫したときよりも離したときなほうが痛みが増強する所見。ブルンベルグ徴候ともいう。
・筋性防御
触診の際に痛みから守るために意識的に腹筋に力を入れ痛みを和らげようとする反応
・筋硬直
腹膜への炎症が強くなると自分の意思とは関係なく反射的に収縮し常に硬い状態になっている
・ローゼンシュタイン
仰臥位よりも左側臥位の方が圧痛が増強する
・ヒールドロップサイン
つま先で立った状態から勢いよく踵をつけると、響くような痛みが生じる。
腹部の触診をする際に大切なのが、痛みのある部位は最後にすること。
最初にやってしまうと、次も痛いんじゃないかと構えてしまい筋肉が緊張状態となり、正確な観察ができなくなってしまいます。
虫垂炎の検査は何をする?
・腹部〜骨盤CT
肥大した虫垂や炎症所見、糞石が確認できる。場合によっては造影CTも行う
・腹部エコー
肥大した虫垂や糞石。腹水なども確認できる
・採血
WBCやCRPの上昇がみられる。重症な場合はプロカルシトニン(PCT)も上昇するので一緒にチェックすることが多い。
また、穿孔性虫垂炎で腹膜炎、敗血症を伴う場合などWBCが低下することも。
虫垂炎の診断スコア
虫垂炎を診断するためにAlvarado Score(アルバラードスコア)というものがあります。
右下腹部に移動する痛み | 1点 |
食欲不振 | 1点 |
悪心・嘔吐 | 1点 |
発熱(37.3℃以上) | 1点 |
右下腹部の圧痛 | 1点 |
反跳痛 | 1点 |
白血球数増加(10000/㎣以上) | 2点 |
白血球の左方移動 | 1点 |
*合計スコアが7点以上で虫垂炎と診断
白血球の左方移動とは?
好中球(Neut)には、成熟した分葉核好中球(Seg)と未熟な桿状核好中球(Stab)がある。
細菌感染が起きると分葉核好中球がめちゃくちゃ消費されるので、まだ未熟な桿状核好中球を増加して頑張らなくちゃいけない。これを白血球の左方移動という。
Stabが15%以上となると左方移動とみなすので、採血で血液像をみてみましょう。
虫垂炎の治療
(保存的治療)
禁食として抗生剤を投与。
炎症が軽い場合に適応されるが、基本的には再発防止を考慮して手術を勧めることが多い。
(手術)
・腹腔鏡下虫垂切除術(Lap-appe)
臍部に1〜2cm 恥骨上部に5mm 左下腹部に5mmの3ヶ所にポート挿入のため切開する
術後侵襲が少ない
・単孔式腹腔鏡下虫垂切除術
臍部に2〜3cmの傷1ヶ所のみ。
術後侵襲が少ない
・開腹手術
10cmほど正中切開。
炎症や癒着が強い場合に行う。
術後侵襲が大きい
虫垂炎の看護のポイント
虫垂炎は再発防止のためにも基本的に手術になることが多いので、手術前後の看護のポイントを解説していきます。
手術前
- 疼痛の部位と程度、腹膜刺激症状の観察
- 疼痛増強時はブスコパンやソセゴン+アタラックスPなどで疼痛コントロール。
- 悪心、嘔吐がある場合は制吐剤を使用
- 禁食となるので輸液管理
- 術前オリエンテーション
虫垂炎は診断がついた時点で緊急手術になることも多く患者さんの不安も強い。可能な範囲でオリエンテーションを行いながら術前準備を進めていく。
手術後
虫垂炎の術後で起きやすい合併症の観察が重要
・手術部位感染(SSI)
虫垂炎は、すでに細菌感染を起こしている状態であり、細菌が創部に付着し手術部位感染を起こすリスクがある。開腹手術となった場合はリスクが高い。
- 発熱の有無
- 創部の発赤、疼痛の観察
私の経験上、創感染は開腹手術となった場合がほとんどで、手術直後より数日してから創周囲の発赤で気付く。熱は微熱程度が多い印象です。
・腹腔内膿瘍
穿孔性虫垂炎で腹膜炎を起こした場合は、腹腔内を生食で洗浄し液体がたまりやすい部位(ダグラス窩や右傍結腸溝)にドレーンを留置してくる。
しかし、ドレーンのない部分に液体がたまってしまい細菌の培地となって腹腔内膿瘍を起こすことがある。
- 術後3〜4日目くらいから急に発熱。
- ドレーンの性状
- 疼痛(創部痛との判別が難しいけど…)
・腸閉塞
虫垂炎の術後は腸管麻痺により麻痺性のイレウスを起こしやすい。特に腹膜炎で開腹手術であればリスクが高い。
- 悪心・嘔吐
- 腹部膨満感
- 排ガス・排便の有無
- 腸蠕動音の消失
- 早期離床を促しどんどん歩行させる
腹腔鏡で炎症も強くなければ術後1日目から水分飲んで食事を開始する。
炎症が強く開腹手術をした場合などは、3〜4日禁食となることがある。
これ以外にも、無気肺などの呼吸器合併症の予防や疼痛コントロールも大切です。
まとめ
虫垂炎と看護のポイントについてまとめてみましたが、消化器科で働いていれば虫垂炎の患者さんを受け持つこと多いと思いますので、少しでも役に立ってくれれば幸いです。